民法改正により居住用不動産の持戻免除。それでも、夫婦間で自宅の贈与をすすめない理由<No 905>
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これまで
「特別受益として相続財産に持ち戻し」
贈与税では、婚姻期間20年以上の配偶者へ自宅を贈与した場合、2,000万円まで非課税になる特例があります。
これは、一家の大黒柱であるご主人が、残された奥様に住まいの不安を残さないよう配慮してつくられた制度であると理解します。
配偶者保護という観点で、入口である贈与時はよくできているのですが、出口である相続時に問題があります。
生前贈与加算は相続開始前3年以内に贈与された財産に限定されているので、贈与から相続まで3年以上経っていれば、相続税がかかることはありません。(相続時精算課税制度を利用している場合を除く)
しかしながら、この規定はあくまでも、相続税額を計算するものであって、相続人の法定相続分を計算する際には贈与された自宅を相続財産に持ち戻す必要があるのです。
これを、「特別受益」と言います。
特別受益は、贈与時に非課税であろうが、3年経っていようが関係ありません。
(民法と税法で異なります)
相続人が生前に受けた贈与は、すべて特別受益として相続財産に持ち戻して法定相続分を計算することになるのです。
つまり、特別受益として自宅が相続財産に持ち戻しされてしまうと、自宅を取得した奥様は、その分、自分の相続分を失ってしまうために、預貯金や他の財産をもらい損ねてしまうのです。
親族間で意思疎通が図れていれば良いですが、疎遠になってしまうケースも多くあります。
自宅を相続したが故に、手元財産をなくしてしまう。
ご主人からすれば、長年連れ添った奥様に自分が元気なうちに自宅を贈与して、名義を変えておきたいという気持ちはわからないでもありません。
不幸を起こさないためには、
- 遺言書を作成し
- 「持戻をしない」と遺言書で意思表示すること
これで、上記のようなケースを回避することが出来ました。
民法改正により居住用不動産の持戻免除
ただ、法律の改正が行われたことで、遺言書に「持戻をしない」と書いていなくても、夫婦間での自宅の贈与については、相続時に持戻をしないことになりました。
これは、2019年7月1日以降の贈与について適用されます。
それでも、夫婦間で自宅の贈与をすすめない理由
理由 その1
では、これで一件落着かというと、そういうわけではありません。
今回の改正は、居住用不動産の配偶者への贈与についてのみですので、他の贈与については、これまで通り特別受益として持ち戻す必要があります。
持ち戻さないようするためには、遺言書に「持戻免除」の意思表示が必要です。
理由 その2
注意すべきは、贈与税や相続税以外の税金です。
- 不動産取得税
- 登録免許税
贈与税がゼロであっても、不動産の名義を変更だけでこの2つの税金がかかります。
さらに、これらの税金は相続時よりも贈与時の方が高額になるのです。
- 登録免許税(土地)・・・固定資産税評価額の1.5%
- 登録免許税(建物)・・・固定資産税評価額の2.0%
- 不動産取得税は固定資産税評価額の1/2に対して3%
2,000万円で評価した土地であれば、登録免許税だけで30万円かかります。
ちなみに、相続だと登録免許税は0.4%で、不動産取得税はゼロでかかりません。
これがネックでとどまる方もいらっしゃいます。
理由 その3
小規模宅地の特例が使えない
「小規模宅地の特例」とは、亡くなった方や相続人がその土地で、
- 住んでいたり
- 事業を営んでいたり
すると、評価額が最大8割減額、つまり2割の評価で済むのです。
(細かい決まりは端折っています)
ただし、この特例が使えるのは相続時のみであって、贈与時には使えないのです。
2,000万円(暦年贈与適用で2,110万円)の範囲内で贈与できれば良いですが、超えてしまうと贈与税がかかります。
贈与税は相続税より割高に設定されているので、税額だけで言うとお得とはなりません。
配偶者居住権
結論、自宅は贈与ではなく相続で移転する方が良いでしょう。
対応策としては、
- 公正証書遺言の作成
- 遺言書で「配偶者居住権」を遺贈
配偶者居住権に関しては、これだけで1つの論点になるので、多くは説明しませんが、土地・建物をそれぞれ「配偶者居住権」と「負担付所有権」に分解します。
すべてを配偶者が取得すると、金融資産など他の財産がもらえないので、「住む権利」だけもらうことで、他の生活資金が確保できるようになります。
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