相続税・贈与税

節税目的の孫養子の是非。最高裁判決で養子縁組を考える<No 209>

yujiroyamamoto

平成25年度に税制改正が行われてから、資産家だけでなく、一般のかたにも相続税は身近なものなりつつあります。
そこで「節税」「養子」といったキーワードから今回の最高裁判決を考えます。

Contents

あらまし

相続税の節税を目的とした養子縁組が適法か否かが争われていた裁判で、2017年1月31日最高裁判所は、養子縁組が適法であると判決しました。

事例の概要

福島県の男性(当時82歳。以下、「おじいさん」)が、亡くなる前年に長男の息子である孫と養子縁組しました。

その後、おじいさんが亡くなり、相続が始まると、これに対して、長女と次女が「養子縁組は無効である」と反発し訴えました。

第一審は、孫側の主張が認められ、「養子縁組は有効である」とされました。
長女・次女は控訴します。

第二審の東京高裁は、

「税理士から節税効果の説明を受けていた」
「相続税対策が目的で、真の親子関係をつくる意思がなかった」

として無効とされました。

そして、最高裁判所は、

「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合
であっても、直ちに(中略)『当事者間に縁組をする意思がないとき』
に当たるとすることはできない。」

として高裁判決を破棄しました。

そもそもなぜ、養子縁組が行われるのか、そして、争いが起こるのか、順を追って説明します。

孫養子のポイント

養子縁組による孫養子は相続税の節税対策として、行われるもののひとつです。

相続税の総額を減らすこと自体は可能ですが、相続人が一人増えることによって、元々の相続人の取り分が減ってしまいます。

今回の裁判で言いますと、長女、次女の取り分が減ります。

逆に、長男からすると養子縁組する孫は、幼少の我が子なので、ある意味自分の取り分と言ってもいいでしょう。

勿論、異論はありません。そして、姉弟間での争いに発展します。

基礎控除が増える

相続税は、遺産から基礎控除を差し引いた額にかかります。

基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算します。

よって、法定相続人の数が多ければ基礎控除が増えるので、納める相続税は減ります。

よって、養子縁組による節税効果があります。

飛ばし相続

その名の通り、相続を一回飛ばすことによって、相続税の節税をはかります。

本来なら、おじいさん→父→孫の順に相続されるので、二回相続が発生します。

そこで、孫をおじいさんの養子にすることによって、おじいさん→孫と一回の相続で済ませます。

遺留分封じ

基礎控除による節税効果があるといっても、25年改正により、法定相続人ひとり1,000万円から600万円に減ったことにより、その効果は薄まっています。

また、飛ばし相続についても、孫養子は「相続税額の2割加算」という決まりによって、通常の相続人より多めに相続税がかかります。

など、思ったほど節税効果は大きくありません。

では、そこまでして何故、煩わしいことをするのか。

それは、節税目的よりも、「遺留分封じ」にあります。

遺留分とは、遺言にかかわらず、法定相続人が相続できる最低限の権利です。

仮に、「愛人に全財産を相続する」との遺言があった場合、残された妻や子供はたまったものではありません。

そんなケースでも、保障された相続する権利が遺留分です。

子の遺留分は、本来の法定相続分の2分の1です。

まとめ

新聞紙面においては、この裁判は節税目的と書かれていますが、真の狙いは「遺留分封じ」であったのかも知れません。

私見ですが、長男の嫁が献身的な介護をしてくれたが、嫁は法定相続人でない。

一方、相続権利がある姉妹は生前何もしてくれなかった。

だから、

  • 孫を縁組することで長男家族に取り分を多くする
  • 姉妹の取り分を少なくする
  • わずかだか節税もできる

そのように考えたのかもしれません。


参考文献

  1. 日本経済新聞平成28年12月20日付電子版
  2. プレジデント2017.3.20号101頁
  3. 裁判所ウェブサイト courts in japan
    (http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86480)

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